「定額残業手当は割増賃金の算定基礎に含める必要がありますか」
今回は実際に寄せられた実務相談をもとに、「定額残業手当」についてみていきましょう。
“当社は、残業代の支払いに関して定額残業手当を支給しています。先日、ある従業員から残業代(割増賃金)を計算するにあたって、この手当を算定の基礎となる賃金に含めているかどうか聞かれました。どうやら算定の基礎から除外できる手当は限定されており、定額残業手当については含めて計算する必要があるということのようです。当社では含めて計算していませんが、問題があるでしょうか。”
残業に対する割増賃金の支払義務
ご存知のとおり、従業員に時間外、休日、深夜労働を行わせた場合、使用者は法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払う必要があります(労基法37条第1項・第4項、労基法37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。
割増賃金額の計算方法
その際の割増賃金額の計算方法は、1時間当たりの賃金額×時間外、休日、深夜労働を行わせた時間数×割増賃金率となりますが、この「1時間当たりの賃金額」を算定する際、賃金額から除外できる手当は、①家族手当、 ②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、 ⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金、に限定されています(労基法第37条第2項、施行規則第21条)。
ですから、従業員の方も定額残業手当を算定の基礎に含めるものと考えたのでしょう。
確かに、定額残業手当は限定列挙された除外賃金には該当しませんが、残業代を割増賃金算定の基礎に含めて計算するのは不合理ですから、算定の基礎から除外されることになります。
ただし、除外できるといっても、当該定額残業手当が真正に割増賃金の支払と認められる場合に限られることに注意を要します。
「定額残業制」とは
定額残業制とは、あらかじめ毎月の賃金額のうちに一定額の残業代(割増賃金)を組み入れて支払うものです。
もちろんこうした支払方法がただちに法令違反となるわけではありませんが、定額残業制をめぐるトラブルも少なくないことからきちんとした運用が求められています。
定額残業手当の有効性を争った裁判例をみると、明確区分性、対価性そして差額支払などがポイントになると考えられます。
“明確区分性・対価性・差額支払”が重要ポイント
まず、明確区分性では、定額残業手当が時間外、休日、深夜労働の何時間分の割増賃金であるかを明確にしておきます。
次に、対価性では、定額残業手当が割増賃金として支払われる手当である旨を基礎付けるため、実際の割増賃金額と手当の額に大きな乖離が生じないよう、自社の残業の実態に即した額を設定します。
そして、定額残業手当として設定した時間数を超過して働いた場合、割増賃金の実質を有することを示すためにも正しく不足額を支払うようにします。
そのほかにも、給与規程、雇用契約書、給与明細などに定額残業手当が割増賃金である旨が分かるよう記載するとともに、誤解を生まないよう従業員にもきちんと周知する必要があるでしょう。
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