労災民事訴訟の判例から学ぶ〜会社の使用者責任と安全配慮義務〜
今回は、家電量販店に勤務するXが上司・ 同僚からの暴行と仕事のストレスによって精神疾患を発症したとして、会社と同僚らに対し、損害賠償を請求した事件についてご紹介します。
労災認定後の労災民事訴訟である本裁判は、一審では会社に対して約600万円の支払いを命じましたが、控訴審では会社の安全配慮義務違反を否定し、2万円余りの支払いに変更されています。
M家電量販店事件 大阪高等裁判所 (令2・11・13判決)
うつ病等の発症で損害賠償を求める
Xは平成21年8月、家電製品販売等を営む会社に正社員として入社し、店舗で家電販売や商品管理業務に従事していましたが、平成25年7月に主治医からうつ病・不眠症と診断を受けて休職。
平成26年9月、Xはうつ病等の発症は、上司・同僚らによる勤務中の暴行等が原因であるとして労災給付を請求し、労基署長は暴行による心的外傷後ストレス障害の発症を認めて労災給付の支給を決定しました。
その後、Xは会社に対して安全配慮義務違反または使用者責任に基づいた損害賠償を求めて提訴しました。
会社の使用者責任を認めるも、安全配慮義務違反は否定
大阪地裁は、入社後、Xが最低ランクの人事評価が続いており、上司らの注意指導が許容範囲を超えることも会社は認識し得たとし、 また、暴行の事実と仕事のストレスでうつ病になったとして暴行した従業員と会社の責任を認めて、会社に対し約600万円余りの支払いを命じました。会社は敗訴部分を不服として控訴、Xも請求棄却部分を不服として附帯控訴しました。
控訴審では、2回の暴行の事実は認めたものの、仕事のストレスで精神疾患を発症したとする会社の責任の範囲を減縮しました。
暴行に関しては、従業員AがXの右前腕部、頭部及び左腰部を殴打したことは偶発的なものであり、従業員Bによる暴行についても、ペットボトルで頭の上を叩くように脅そうとしたところ、手元が狂って額や眼鏡に当たったものであるとした。
会社はXが上司・同僚から暴力を伴う指導・叱責を受ける可能性を予見できなかったとして、安全配慮義務違反を否定。その上で、Xに対する暴行(不法行為、民法709条)による会社の使用者責任(民法715条)を認めました。
主治医の意見書は採用できない?
また、Xが業務上、心的外傷後ストレス障害を発症したとする根拠として提出した主治医の意見書については、主治医はXやXを支援する労働組合の関係者から事情を聴いているにすぎず、労働組合の関係者の陳述は、明らかな誇張等があって到底信用できないものであるから、主治医の意見書はたやすく採用することはできないとしています。
その他、会社は、Xの休職は業務外の精神疾患(うつ病)によるもので、自然退職したと主張しました。
しかし、Xの精神疾患は従業員らの不法行為によって従前から生じていた抑うつ状態が増悪するなどしたものと推認するのが相当であり、Xの休職は業務に起因するもので、就業規則の定めを根拠にXを退職扱いすることはできないと判示しました。