実務相談〜自己啓発のための学習時間は労働時間に該当するのか?〜
「eラーニングによる自己啓発は労働時間に該当するのでしょうか?」
今回は、実際に寄せられた実務相談をもとに、「労働時間」についてみていきましょう。
“新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、会社では従業員に計画的なテレワークを推奨しています。今回、感染症拡大の収束が見通せないなか、従業員の能力開発にもeラーニングを導入したいと考えています。そこで伺いたいのですが、その学習時間は労働時間に該当することになるのでしょうか。弊社では、eラーニングは強制ではなく、あくまで自己啓発の一環と考えています。 ”
労働時間とは
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事すれば、その時間は労働時間となります。
貴社ではeラーニングの導入を検討しているということですが、その学習時間が労働時間に該当するかどうかは、その目的や性質によって異なるため、個々の事例ごとに判断する必要があるでしょう。
当該eラーニングが業務上義務付けられたものであれば労働時間となり、そうではなく、真に自己啓発と捉えられるものであれば、労働時間には該当しないと考えられます。
ただ、 使用者が強制ではなく、任意による自己啓発だと考えていたとしても、そのeラーニングを受講しなければ業務上支障を来すなど、業務を行う上で必要不可欠なものであれば、その学習時間は実質的に使用者の指揮命令下に置かれていた時間と考えられ、労働時間と捉える必要があるでしょう。
真に任意であれば労働時間に該当しない
貴社で導入しようとしているeラーニングの具体的な内容は分かりませんが、その受講が真に従業員の任意であるならば労働時間には該当しないものと考えられます。
つまり、受講しなくても業務上支障はなく、受講後にレポート提出が求められたり、受講しないことが人事評価において不利に取り扱われたり、といったことなどがなければ、労働時間には該当しないものと考えられます。
関連する判例〜NTT西日本ほか事件〜
関連する判例として、NTT西日本ほか事件(大阪高判 平22・11・19判決)を紹介しておきます。
一審では、WEB学習が業務と認められ、賃金の支払いが命じられましたが、控訴審では、WEB学習について、会社は自己研鑽ツールを提供しているに過ぎないとして、その学習時間を労働時間とは認めませんでした。
控訴審判決では「WEB学習は、パソコンを操作してその作業をすること自体が、控訴人(会社)の利潤を得るための業務ではなく、……各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものといえる。(学習)成果を測るためには、技能試験等を行うしかないが、控訴人において、そのような試験が行われているわけでもない。……WEB学習の推奨は、まさに従業員各人に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているにすぎず、これを業務の指示とみることもできないというべきである」と判示しています。