労働契約における求人票記載内容の注意点とは?
本件は、ハローワークの求人票(無期雇用、定年制なし等)を見て、社会福祉事業の会社に応募し、採用されたXが、勤務開始後、会社側から求人票と相違する労働条件通知書(有期雇用、65歳定年制等)が提示され、これに署名押印した後、1年間の有期契約期間満了で雇止め扱いされたことを不服として、労働契約上の地位確認および未払賃金の支払等を求めて訴えを提起した事案です。
福祉事業者A苑事件 京都地方裁判所 (平29・3・30判決)
求人票と異なる「労働条件通知書」
障害児童デイサービスを営む会社がハローワークに提出した求人票(正社員、契約期間の定めなし、定年制なし)を閲覧したX(当時64歳)は、平成26年1月に同社の面接を受け、採用されました。
面接では、会社は定年制の有無に関しては未定と回答し、労働契約期間の定めの有無や労働契約の始期に関するやり取りはありませんでした。
Xは同年3月から本格的に働き始めますが、会社側はXに対し、求人票と異なる、1年間の有期雇用、65歳定年制等を内容とする労働条件通知書を提示。
Xはすでに以前の会社を退職していたため、拒否すれば完全に仕事がなくなることから、特に内容に意を払わず、同通知書に署名押印します。
Xは、平成27年 1月になって求人票と異なる労働条件であることを認識しますが、会社は同年2月末でXを雇止めとしました。
自由意思に基づく同意ではないと判断
京都地裁は、求人票記載の労働条件で労働契約は成立しているとし、その上で、採用後に提示された労働条件通知書への署名押印は、Xの自由な意思に基づく同意ではなかったと判断し、Xの地位確認および未払賃金の請求を認めました。
判旨は以下のとおりです。
求人票は、求職者の雇用契約締結の申込みを誘引するもので、求職者は「当然に求人票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込みをするのであるから、求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、雇用契約の内容となると解するのが相当である」としました。
労働契約成立の観点について
また、Xが労働条件通知書の裏面に署名押印したことで、新契約が成立したとする会社側の主張については、「当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当」と山梨県民信用組合事件(最二小判平28.2.19判決)の判断枠組みを援用。
その上で、労働条件通知書による労働契約の変更内容は、Xの不利益が重大であるとし、署名押印の行為が自由意思に基づくものとは認められないとして、Xの同意があったとする会社側の主張を斥けました。