【判例から学ぶ】育休取得による定期昇給や減年調整は不法行為にあたる?
本件は、育児休業の取得を理由に定期昇給が認められなかった男性講師が、そのような大学側の取扱いは育介休業法が禁止する「不利益取扱い」に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償を求めて争った裁判です。
大阪地裁は、定期昇給は年功賃金的な考え方が原則だとして原告の訴えを一部認容し、大学に対して定期昇給で得られたはずの基本給や賞与との差額分の支払いを命じました。
K大学事件 大阪地方裁判所(平31・4・24判決)
育休取得による取扱い対して提訴
原告である男性講師は平成27年11月から9カ月間、育児休業を取得しました。
同大学の規程上、昇給には原則12カ月の勤務が必要で、育休その他の休職期間は昇給に必要な勤続期間に算入しないとされていたことから、定期昇給は行われませんでした。
また、平成24年の採用時に、採用前の経歴の一部を減年するなどして決定した初任給について、勤続5年経過時に再調整する「減年調整」も行われず、加えて育休取得により、担当時間が通年で平均週10時間を超えている場合に支給される増担手当の返還を大学側から求められました。
当該講師は、こうした取扱いはいずれも不法行為に該当するとして、定期昇給および減年調整が実施されていた場合の賃金・賞与額との差額ならびに慰謝料を求めて提訴しました。
定期昇給なしは不法行為にあたる
大阪地裁は、定期昇給は在籍年数に応じた年功賃金的な制度であり、育児介護休業法は休業期間を出勤として取り扱うことまで求めていないが、育休取得によってそれ以外の就労に関する功労を一切否定するのは、同法の「不利益な取扱い」(10条)に該当するとしました。
このことは、育休以外の私傷病休職等によって昇給が抑制されていたとしても、この不利益取扱いは否定されないと判示しています。
減年調整に関しては、特別昇給であり、育休取得者に対しても相当の配慮をしながら、現に勤務をした者との間で調整を図るものとして一定の合理性を有しているとして、裁量権の逸脱または濫用は認められないとしています。
増担手当も「不利益な取扱い」に該当
また、増担手当の返還に関しては、年度途中で担当時間が減った場合の返還請求をただちに不合理ということはできないものの、「通年での平均により育休を取得せずに勤務した実績までをも減殺する効果を有するもの」であるとして、育児介護休業法の「不利益な取扱い」に該当するとしました。
裁判所の判断の枠組みとしては、育休期間を無給の欠勤として取り扱うことは違法とは言えないが、育休取得に伴う措置がその法的利益を実質的に失わせる場合には、無効になるということでしょう。
ですから、長期的に相当な不利益になり得る定期昇給と増担手当については「不利益な取扱い」に該当するとし、大学側の裁量が大きく、育休取得者に対しても相当の配慮のある減年調整については「不利益な取扱い」に該当しない、と評価したものと言えそうです。